ある真夏の日のことだった。曇り空に、耳鳴りのような蝉の声が響いている。マンションの敷地を横切って、近所のスーパーマーケットへ買い物へ向かった。午後１５時という時間のせいか、暑さのせいか、道にも公園にも人の気配は無い。
夕飯の献立と段取りを考えながら足を動かしていると、突如として、茶髪に白いポロシャツをなびかせ、サングラスといういでたちの若い男が乗った電動スクーターが通って行った。口には少々、飄々とした笑みを浮かべているようにも見えた。
この道は歩行者専用に造られたもので、普段から自転車以外は走らない。そもそも電動スクーターやバイクが走行してよいのだろうか？
それだけなら「こんなこともあるだろう」とすぐに忘れてしまったかもしれないが、その後を白バイが追いかけていったので、更に驚いた。
し かし猛スピードの追跡劇というわけではない。ヘルメットを着けていないせいで追いかけられているようだが、そもそもいつも通りかかる交番に誰か人がいるのを見たことがないような町だ、こんな車道でもないマンションの敷地の中へ白バイが追いかけてくる事象自体がかなりのイレギュラーである。
などと分析していると、今度はその二台が前方からやってきた。夏休みで静まり返った小学校の前を、後方へ去ったはずのスクーターが、目の前を掠めるようにして曲がって行き、白バイが追いかけていく。
一度車道へ抜けてからまた敷地内に入ってきたのだろうが、二度目の目撃はさらに驚いた。
何か意味があるのだろうか、と考えつつ更に目的地であるスーパーマーケットへ向かって進んで行った。
考えに没頭していると、後方から電動スクーターの音がブィィィンと近付いてくる。そして追い抜いて前方へ走り去って行った。
思わず後ろを振り返って確認してしまったが、白バイは来ない。
一度目でも驚いた光景であったが三度目も繰り返され、しかも三度目は明らかにオチの部分である。
白バイを振り切って、軽快に去って行く男の姿がまるで白昼夢のようで、それが現実だったのかと疑ってしまうほどだった。
でもなんだか、とても清々しいと言うか、とても楽しい気分になり、ひとりでにやりとした。
きっと私が映画監督だったら、見たままを使うと思う。



完

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